2016年03月02日
な少女がここにい
「それなら手で掘りなさい!」残酷とも言えるほど強い口調だ。
「わかりました」いつにない教母の激しさに気圧《けお》されて、カルテンは急いで外に出ていった。
「かわいそうに」セフレーニアは小さな遺体のそばで哀悼の声を上げた。
遺体はからからに干からびていた。肌は灰色になり、落ち窪《くぼ》んだ目は見開かれたままだ。
「ベリナの仕業ですか」スパーホークの声も、いつになく大きくなっていた。
「いいえ、シーカーです。あれはこうやって人を餌食にするのです。ここに」と子供の身体に残る小さな穴を指差し、「そしてここと、ここと、ここにも。これはシーカーが体液を吸った跡です。干からびた死体だけを残していくのです」
「二度とさせない」スパーホークはアルドレアスの槍を握りしめた。「今度会うときが、やつの死ぬときだ」
「あなたにできますか、ディア」
「やらずにはいられませんよ。この子の仇を討ちます――相手がシーカーだろうと、アザシュだろうと、地獄の門そのものであろうと」
「怒っているのですね」
「ええ、そのとおりです」愚かで無意味なことだとわかっていたが、スパーホークは剣を引き抜き、罪もない壁に斬りつけた。それで何が解決するわけではないが、少しは気分がよくなった。
残りの者たちが静かに村へやってきて、カルテンが素手で掘った墓穴の前に集まった。セフレーニアが家の中から、干からびた子供の死体を抱いて現われた。フルートが薄い布を手に進み出て、二人はゆっくりと遺体を布に包んだ。遺体は粗末な墓の中に納められた。
「ベヴィエ、お願いできますか」セフレーニアが声をかけた。「この子はエレネ人です。ここにいる騎士の中では、あなたがいちばん信心深いでしょうから」
「わたしにはできません」ベヴィエはぼろぼろと涙をこぼしていた。
「ほかの誰にできるというのです。この子を無明の闇の中に、独りで放り出すのですか」
ベヴィエはじっと教母の顔を見つめていたが、やがて墓の前にひざまずき、エレネ教会に古くから伝わる死者のための祈りを唱えはじめた。
意外なことにフルートが、ひざまずいているアーシウム人の騎士に近づいた。その指が黒い巻き毛を、慰めるようにそっと撫でる。なぜかスパーホークは、この奇妙る誰よりもずっと歳をとっているような感じを受けた。と、フルートが笛を取り上げた。流れてきた古い旋律はエレネ人のあいだに昔から知られているものだったが、それでいてどことなくスティリクム的なものを感じさせた、少女の吹く笛の音に、一瞬スパーホークは信じられないような可能性を考えた。
葬儀が終わると一行は馬に乗り、進みつづけた。その日はみんな口数が少なかった。夜になると小さな湖のそばの、吟遊詩人と出会った場所に野営した。男はいなくなっていた。
「これを恐れていたんだ。まだここにいると思ったのが甘かった」スパーホークが言った。
「このまま南へ進めば追いつけるだろう」とカルテン。「あの男の馬は疲れきってたからな」
「追いついてどうするんだ。まさか殺すつもりじゃあるまいな」ティニアンが疑念を口にする。
「それは最後の手段だ」カルテンが答えた。「ベリナがどうやって感染させたのかわかったんだから、セフレーニアが治してやれるんじゃないか」
「信頼していただくのは嬉しいのですが、それは見当違いのようですね」セフレーニアが口をはさんだ。
「ベリナがかけた呪文は、弱まったりはしないのですか」ベヴィエが尋ねる。
「わかりました」いつにない教母の激しさに気圧《けお》されて、カルテンは急いで外に出ていった。
「かわいそうに」セフレーニアは小さな遺体のそばで哀悼の声を上げた。
遺体はからからに干からびていた。肌は灰色になり、落ち窪《くぼ》んだ目は見開かれたままだ。
「ベリナの仕業ですか」スパーホークの声も、いつになく大きくなっていた。
「いいえ、シーカーです。あれはこうやって人を餌食にするのです。ここに」と子供の身体に残る小さな穴を指差し、「そしてここと、ここと、ここにも。これはシーカーが体液を吸った跡です。干からびた死体だけを残していくのです」
「二度とさせない」スパーホークはアルドレアスの槍を握りしめた。「今度会うときが、やつの死ぬときだ」
「あなたにできますか、ディア」
「やらずにはいられませんよ。この子の仇を討ちます――相手がシーカーだろうと、アザシュだろうと、地獄の門そのものであろうと」
「怒っているのですね」
「ええ、そのとおりです」愚かで無意味なことだとわかっていたが、スパーホークは剣を引き抜き、罪もない壁に斬りつけた。それで何が解決するわけではないが、少しは気分がよくなった。
残りの者たちが静かに村へやってきて、カルテンが素手で掘った墓穴の前に集まった。セフレーニアが家の中から、干からびた子供の死体を抱いて現われた。フルートが薄い布を手に進み出て、二人はゆっくりと遺体を布に包んだ。遺体は粗末な墓の中に納められた。
「ベヴィエ、お願いできますか」セフレーニアが声をかけた。「この子はエレネ人です。ここにいる騎士の中では、あなたがいちばん信心深いでしょうから」
「わたしにはできません」ベヴィエはぼろぼろと涙をこぼしていた。
「ほかの誰にできるというのです。この子を無明の闇の中に、独りで放り出すのですか」
ベヴィエはじっと教母の顔を見つめていたが、やがて墓の前にひざまずき、エレネ教会に古くから伝わる死者のための祈りを唱えはじめた。
意外なことにフルートが、ひざまずいているアーシウム人の騎士に近づいた。その指が黒い巻き毛を、慰めるようにそっと撫でる。なぜかスパーホークは、この奇妙る誰よりもずっと歳をとっているような感じを受けた。と、フルートが笛を取り上げた。流れてきた古い旋律はエレネ人のあいだに昔から知られているものだったが、それでいてどことなくスティリクム的なものを感じさせた、少女の吹く笛の音に、一瞬スパーホークは信じられないような可能性を考えた。
葬儀が終わると一行は馬に乗り、進みつづけた。その日はみんな口数が少なかった。夜になると小さな湖のそばの、吟遊詩人と出会った場所に野営した。男はいなくなっていた。
「これを恐れていたんだ。まだここにいると思ったのが甘かった」スパーホークが言った。
「このまま南へ進めば追いつけるだろう」とカルテン。「あの男の馬は疲れきってたからな」
「追いついてどうするんだ。まさか殺すつもりじゃあるまいな」ティニアンが疑念を口にする。
「それは最後の手段だ」カルテンが答えた。「ベリナがどうやって感染させたのかわかったんだから、セフレーニアが治してやれるんじゃないか」
「信頼していただくのは嬉しいのですが、それは見当違いのようですね」セフレーニアが口をはさんだ。
「ベリナがかけた呪文は、弱まったりはしないのですか」ベヴィエが尋ねる。
Posted by ンを連れて来て at 12:52│Comments(0)