2015年08月24日
戻すための手数料だと思

「ほら、お金を返すよ」泥棒少年はそう言って、数枚の硬貨を手渡した。
スパーホークは驚いて少年を見つめた。
「橋を渡るのにお金がいるのは仕方ないさ。誰かがお金を出して、橋を架けたわけだからね。でもあいつは川が自然に浅くなってる場所を利用してるだけだ。自分の懐《ふところ》はぜんぜん痛めてない。それで利益が得られるなんて、おかしいじゃない」
「すったのか」
「もちろん」
「財布にはわたしの硬貨以外にも金が入ってたろう」
「ちょっとだけね。あんたの金を取りってよ。おいらがこれで利益を得るのは正当なことだと思うんだ」
「手に負えないな」
「練習をしとかないとね」
そのとき川の向こうから怒りの叫びが聞こえた。
「どうやら気がついたようだな」とスパーホーク。
「あの声はそうらしいね」
川の対岸の土壌も、今まで踏破してきた荒れ地と比べてさほどましとは言えなかった。ときどき見える貧相な畑では、みすぼらしいなりの農民が茶色のスモックを泥だらけにして、痩《や》せた土地からわずかな作物を収穫するための、厳しい長時間の労働に従事していた。クリクは軽蔑《けいべつ》するように鼻を鳴らした。
「素人《しろうと》だ」クリクは農作業というものをきわめて真剣に考えているのだ。
午前中なかばごろになって、これまでたどってきた細い道が、しっかりと踏みならされた広い街道になった。街道はまっすぐ東に向かっている。
「提案があるんだがね、スパーホーク」ティニアンが青い紋章の入った盾を動かして声を上げた。
「どういう提案だ」
「また原野に踏みこんだりせずに、このまま街道を行ったほうがいいんじゃないかな。ペロシア国は見張りのいる国境を避けるような旅人に対して神経質だ。密輸の心配をしてるんだよ。国境警備隊と揉《も》めるのは得策じゃないと思う」
「わかった。揉めごとはできるだけ避けよう」
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15:40
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2015年08月20日
られたでおちゃらけ
を出かかったところで、二条乃梨子はそのにやけた声に呼び止められた。
振り返った先にいたのは、油断のならないその声から想像したとおりの顔だった。忘れるはずがないだろう。こんなに日本人離れした顔だちの人間は、そんなにそうそうお目にかかるものではない。しかも、この自分を皮肉って「未来の白薔薇さま」ときたもんだ。そこまて呼ぶほどの人間は、日本じゅう探してもなおさらいない。
佐藤聖は二本指を額の横にかざして、スポーティな決めポーズをとっている。
まるで、ひと昔前のファッション誌網絡聲譽管理の少年モデルのようだ。ハンチング帽をかぶり、春物のジャケットを着たその姿こそ、彼女の生来そのままを表現している。自分とおなじ、ネイビーブルーの古式ゆかしい制服をこの人が纏っていたなんてとうてい想像できない。この人は、これから先もずっと、制服なんてものが似合わない生き方を選んでいくのだろう。教師の娘である乃梨子には、そんな生き方には微塵も共感できなかった。
「…まだ、白薔薇の蕾(ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトン)ですよ、私」
鞄を律儀に前で両手で提げて、すたすたと通り過ぎようとする乃梨子。
その肩を引っ掴んで、聖は高壓通渠強引にこちらに振り向かせた。
「姉を差し置いて、そんな称号名乗DR REBORN投訴っちゃいけないってか。律儀だねぇ。のりぴー、君はりっぱな妹の鑑だよ、まったく」
「だから、そのふざけた呼び方止めてもらえませんか。佐藤聖さん」
振り返った先にいたのは、油断のならないその声から想像したとおりの顔だった。忘れるはずがないだろう。こんなに日本人離れした顔だちの人間は、そんなにそうそうお目にかかるものではない。しかも、この自分を皮肉って「未来の白薔薇さま」ときたもんだ。そこまて呼ぶほどの人間は、日本じゅう探してもなおさらいない。
佐藤聖は二本指を額の横にかざして、スポーティな決めポーズをとっている。
まるで、ひと昔前のファッション誌網絡聲譽管理の少年モデルのようだ。ハンチング帽をかぶり、春物のジャケットを着たその姿こそ、彼女の生来そのままを表現している。自分とおなじ、ネイビーブルーの古式ゆかしい制服をこの人が纏っていたなんてとうてい想像できない。この人は、これから先もずっと、制服なんてものが似合わない生き方を選んでいくのだろう。教師の娘である乃梨子には、そんな生き方には微塵も共感できなかった。
「…まだ、白薔薇の蕾(ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトン)ですよ、私」
鞄を律儀に前で両手で提げて、すたすたと通り過ぎようとする乃梨子。
その肩を引っ掴んで、聖は高壓通渠強引にこちらに振り向かせた。
「姉を差し置いて、そんな称号名乗DR REBORN投訴っちゃいけないってか。律儀だねぇ。のりぴー、君はりっぱな妹の鑑だよ、まったく」
「だから、そのふざけた呼び方止めてもらえませんか。佐藤聖さん」
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13:10
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2015年08月18日
忠誠心や信仰心と

「あっちには金の動きを報告しなくちゃならないのさ。カレロスの聖議会は、教会の金の使い方にはひどく厳しいんだ」
「ようし、諸君」霧の中から若い隊長の声がdermes聞こえた。「パンディオンどもの宿はすぐそこだ。見張りの兵士たちに交替の時間だと言っておいたからな。急いで行って、配置につくんだ」
「聞こえたろう。前進だ」下士官の声に、教会兵たちは霧の中を歩きはじめた。スパーホークは闇の中で薄く笑みを浮かべた。敵が世間話をしているのを立ち聞きする機会は、そうあるものではない。シミュラの司教の兵士たちが、もしかすると金ずくではなく、いったもので動いているのではないかとずっと気になっていたのだ。路地から足を踏み出し、あわててまた路地に飛びこむ。街路を近づいてくる別の足音が聞こえたのだ。いつもは人の姿のない夜のシミュラだが、今夜はなぜdermesか人通りが多いようだった。足音は大きくて、誰かにそっと忍び寄ろうとしているのではないらしかった。スパーホークは柄の短い槍を持ち替えた。そのとき霧の中から人影が現われた。黒っぽいスモックを着て、一方の肩に大きな籠《かご》を載せている。作業員か何かのようだが、はっきりしたことはわからない。スパーホークは音を立てないようにしてその男をやり過ごした。足音が聞こえなくなるまで待って、ふたたび街路に踏み出し、慎重に足を進める。柔らかなブーツは敷石に当たってもほとんど音を立てない。灰色のマントはしっかりと身体に巻きつけて、鎖帷子ががちゃがちゃいわないように気をつけた。
酒場の開いたドアから猥歌《わいか》とともに洩《も》れてくるランプのちらつく黄色い光を避けて、誰もいない街路を渡る。槍を左手に持ち替え、フードをさらに引き降ろして顔を隠し、霧の流れる光の中を通り過ぎる。
スパーホークは足を止め、霧に閉ざされた前方の街路を目と耳で慎重に探った。だいたい東門の方角に向かってはいるが、あまりその点にこだわる気はなかった。まっすぐ目的地に向かう人物の通る道は予測しやすく、従って待ち伏せしやすい。たとえ一晩かかろうとも、今はアニアスの手先に気づかれることなく街を離れるのが何よりも重要だった。通りに誰もいないことを確認すると、騎士はふたたび影のいちばん深い部分を選んで歩きつづけた。やがて霧にかすんだ松明のオレンジ色の光の中、角の壁にdermesもたれている物乞いの姿が見えてきた。両目の上に布を巻き、腕と足には見栄えのする腫《は》れ物をいくつも作っている。こんな時間にいい稼ぎが期待できるはずはないから、何か別の目的でそこにいるのだろう。
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01:10
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2015年08月09日
が議論の場に戻って言っ

「そうです。禁じられた秘儀を教えてくれと頼みにきたのです。すっかり思い詰めていました。そういう性格だったのです。むろんわたしは言下に断わりましたが、スティリクム人にも堕落する者はいます。パンディオン騎士さえ堕落することがあるように。マーテルは富裕な家の出で、たっぷりと報酬を支払う余裕がありました」
「その男を見つけたのは?」とダレロン。
「わたしです」スパーホークが答えた。「シミュラからデモスへ向かっていたときのことでした。アルドレアス王から追放を言い渡された直後です。デモスの優纖美容好唔好手前に三リーグばかり森の続くところがあって、わたしはちょうど夕暮れ時にそこを通りかかりました。木々の向こうに妙な光が見えたので、馬を下りて様子を探りにいくと、マーテルがいたのです。何かぎらぎらと輝く存在《もの》を呼び出していました。輝きがあまりにも強くて、そのもの[#「もの」に傍点]の顔さえはっきりとはわかりませんでしたが」
「見たいと思うような顔ではなかったでしょう」セフレーニアが口をはさんだ。
「おそらくね。とにかくマーテルはそのものにスティリクム語で話しかけ、何事か命令していました」
「別におかしなところはあるまい」コミエーが意見を述べた。「われわれであっても、時に精霊や幽霊を呼び出すくらいのことはする」
「精霊くらいなら問題はないのです優纖美容好唔好が、これはダモルクです」セフレーニアが説明を始めた。「かつてスティリクムの古き神々が奴隷として造り出したものです。異常なほどの力を持っていますが、魂はありません。神々はこれを想像もできない場所にある棲処《すみか》から召喚して、意のままに操るのです。しかし不死ならぬ人間がこれを扱うのは、まったくの愚行です。死すべき運命《さだめ》の人の子に、ダモルクを操ることはかないません。マーテルの行ないは、若き神々が厳しく禁じていることなのです」
「では、古き神々は?」
「古き神々には戒律などありません。気紛れと欲望があるばかりです」
「だが、マーテルはエレネ人だろう」ドルマントがはじめて声を上げた。「スティリクムの神々の禁令に従わねばならぬ謂れはないと考えたのではないかな」
「スティリクムの秘儀を行なうyou beauty 美容中心からには、スティリクムの神々に従わなくてはならないのですよ、ドルマント」
「通常の武器のほかにスティリクムの魔術まで教会騎士団に与えたのは、間違いだったかもしれんな」ドルマントは考えこみながらつぶやいた。「触れるべきではなかったものを弄《もてあそ》んでいるような気がする」
「九百年以上も昔の決定ですぞ」アブリエルた。「それにもし教会騎士団が魔術を使えなかったとしたら、ゼモック人がラモーカンド平原の戦いを制していたかもしれない」
「あるいはな」とドルマント。
「話を続けてくれ、スパーホーク」コミエーが先を促した。
「もうあまり話すことはありません。ダモルクという名はあとでセフレーニアから聞くまで知りませんでしたが、禁じられた魔術だろうということは想像がつきました。しばらくするとその輝くものは消えてしまったので、わたしは進み出てマーテルに話しかけました。友人だったし、禁を破るべきではないと忠告しようと思ったのです。しかしマーテルは少しおかしくなっているようでした。わたしに向かって金切り声で、他人のすることに口を出すなとわめき立てたのです。そうなっては選択の余地などありません。わたしはデモスの騎士館に駆けこんで、ヴァニオンとセフレーニアに見たことを報告しました。セフレーニアは優纖美容輝くものの正体を教えてくれ、それをこの世に解き放つことの危険性を説明してくれました。ヴァニオンは手勢を連れてマーテルを捕縛し、訊問のために騎士館まで連行するようにとわたしに命じました。われわれが近づくとマーテルは狂ったようになって、剣を抜きました。もともと優れた剣士でしたが、そのときは狂暴さも加わって、わたしはその日、二人の親しい友を亡くすことになりました。それでも最後には取り押さえ、鎖につないで騎士館に連行することができました」
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22:08
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2015年08月02日
音を立ててビールを

「どうしておれを起こさなかった」カルテンの不機嫌そうな声が響いた。寝台の端に腰をおろして、濃いシチューの椀《わん》を手にしている。
「おまえには休息が必要だった」スパーホークは目の上の布をほどきながら答えた。「それに外は雨だったしな」
「クレイガーには会えたのか」
「いや。だが声は聞こ人民幣匯率走勢
えた。それでじゅうぶんだ」スパーホークは火床を迂回《うかい》して、座っているプラタイムの前に回った。「荷車と御者を用意できるかな」
「必要とあらば」プラタイムは銀のジョッキからすすった。染みだらけのオレンジ色の胴衣《ダブレット》に、さらにビールがこぼれる。
「必要だ。わたしとカルテンは感覺統合訓練騎士館に戻らなくてはならない。司教の兵士たちはまだわれわれを探しまわっているだろうから、荷車に隠れていこうと思うんだ」
「荷車じゃあ時間がかかるだろう。四輪馬車の窓にカーテンを降ろしていったらどうだ」
「四輪馬車があるのか」
「何台かある。このところ神の覚えがめでたくてな」
「そいつはありがたい」スパーホークは振り返った。「タレン」
立っていた少年が駆け寄ってくる。
「今朝、わたしからいくら盗んだ」
タレンの顔に警戒の色が広がる。
「大した額じゃないよ。どうしてさ」
「正確にはいくらだ」
「銅貨が七枚名創優品香港と銀貨が一枚。あんたは友だちだから、金貨は返しといた」
「感激だね」
「金を返してほしいわけ?」
「取っておけ。駄賃だ」
「気前がいいね、旦那《だんな》」
「話はこれからだ。このあともクレイガーを見張っていてくれないか。わたしはしばらく街を離れることになるが、やつの動向はつかんでおきた名創優品香港いんだ。もしやつがシミュラを離れるようなら、薔薇《ばら》街の宿屋を訪ねろ。どの宿だかわかるか」
「パンディオン騎士団が経営してるとこ?」
「どうしてそんなことを知ってるんだ」
「みんな知ってるよ」
それはそれでいいことにする。
「まず門を三回叩き、少し間をあけてもう二回叩く。それで門番が門を開けてくれる。門番といっても騎士だから、礼儀正しくするんだぞ。それからその門番に、スパーホークが目をつけている男が街を出たと話すんだ。できればクレイガーの向かった方角も教えてやれ。ちゃんと覚えたか」
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03:46
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